第3号 新たな火種?―「AUKUS」をめぐる議論(2023年8月8日)

写真は、ウィーン国際センター内で開催された平和首長会議による原爆写真展(撮影:RECNA)

 準備委員会も第2週に入り、8月7日に第2委員会(核不拡散・地域問題)、8日に第3委員会(原子力平和利用)の議論が行われた。主な論点として、イラン核合意、中東非大量破壊兵器地帯、原子力施設への軍事攻撃への批判などが議論された。なかでも、比較的新しい論点として注目されたのが、米・英・豪が2021年に合意した、いわゆる「AUKUS」問題である。

NPT保障措置の抜け穴

 AUKUS合意の中で注目されたのは、非核保有国であるオーストラリアが米・英からの技術協力のもと原子力潜水艦を保有するという項目であった。原子力潜水艦の核燃料は高濃縮ウラン(HEU)が使用される可能性が高く、しかも軍事用であるため、IAEAの保障措置外に置かれることになることが大きな問題とされる。実は、NPT第2条で核爆発への利用は禁止されているが、原子力潜水艦の燃料としての利用は禁止されていない。一方、保障措置の対象は第3条において、「すべての核物質」と定義されているが、これも「平和利用の核物質・施設」に限るので、原子力潜水艦の燃料は保障措置の対象外となる。この点は、NPTの重要な「抜け穴」として指摘されてきた。

地域安全保障への懸念と当事国の反論

今後の行方に注目

 しかし、この問題は短期的に解決できる問題ではなさそうだ。IAEAの包括的保障措置(INFCIRC/153)の第14項は、「核物質が『禁止されていない非民生用途』にある間、保障措置外に置かれるが、その間も核物質が核兵器や他の核装置に使用されないことをIAEAに報告する義務がある」、とされている。非核保有国における前例として、ブラジルの原子力潜水艦プログラムにおける核燃料の保障措置がある。問題は、軍事機密が非核保有国に移転しないような検証措置を工夫することであるが、技術的には可能であることがブラジルのケースで示されたとされている。しかし、技術的な可能性だけで、この問題が解決するかどうかは不透明だ。AUKUS合意の実際の運用の詳細も明らかにされておらず、原子力潜水艦の移転自体も10年以上もかかると想定される。この話題は、今後しばらくの間、核不拡散と原子力平和利用の新たな火種になりかねない。今後も注目しておく必要がある。

(鈴木達治郎)

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