第2号 「核共有」をめぐる議論(2023年8月4日)

会場内の様子。スクリーンに映っているのは、日本の武井俊輔外務大臣政務官(2023年7月31日撮影)

 7月31日午前から8月2日午後にかけ、一般討論が行われた。発言した95の国・国家グループ・国際機関は、現状への強い危機感を背景に、NPT遵守の重要性を強調し、対話と協力を求め、次回再検討会議の成功を目指す決意を口々に述べた。

 しかし同時に、2022年再検討会議でも浮上したいくつもの対立点が、より激しさを増しつつ露わになっていった。本ブログ0号でも紹介した、「核共有(nuclear sharing)」や米英豪「AUKUS」をめぐる問題、さらにはイラン核問題や日本の福島第一原発「処理水」問題などである。連日、予定された一連の演説の終了後に、一部の国が「反論権(right of reply)」を行使し、激しい言葉の応酬を繰り返す場面が見られた[1]

ロシア・ベラルーシへの批判とNATO諸国の正当化

 ここでは特にNPT体制にとって大きな課題となりつつある「核共有」をめぐっての各国の議論を振り返ってみることにする。

ロシア・ベラルーシの見解と「反論」の応酬

 続いて発言したロシアは、一連のポーランド批判を述べたのち、直近のオランダの発言を取り上げ、「ロシアは(NATO)核共有について理解を示したことは一度もない」と切り捨てた[3]。ロシアの発言を受けては、今度はポーランドが反論権を使ってロシア非難を繰り返した。さらにはロシアが二度目の反論権を使ってそれに応じるという展開が続いた。

非核保有国の意見

 加えて注目すべきは、いくつもの非核兵器国が、ともに核兵器に依存する敵対する国々が、自らの政策の正当性を声高に主張する一方で、相手の同様の行動は批判するという欺瞞に満ちた姿勢そのものを鋭く批判していた点である。核共有をめぐる議論はまさにその典型と言える。

(中村桂子)


[1] 議事ルールにある反論権とは、他国の演説の中で誹謗中傷や事実と異なる指摘があった場合に、それに対して反論できるというものである。ただし反論、再反論の際限なき応酬とならないように、反論は一国につき回数は2回まで、発言時間は5分(2回目は3分)と定められている。

[2] ブダペスト覚書とは、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンが非核兵器国としてNPTに加入することに関連し、米国、英国、ロシアがこの3カ国の安全を保証するとしたもの。

[3] NPT草案の段階で米国とソ連は交渉を重ね、NATO核共有政策が条文に抵触しないことを了解していたとされる。たとえば以下の文献がある。https://www.ifri.org/sites/default/files/atoms/files/alberque_npt_origins_nato_nuclear_2017.pdf

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